15. オオルリ [Cyanoptila cyanomelana]
幸せの青い鳥？
八幡平の３合目相当、標高650〜700m付近に私の好きな山道があります。
平坦に開けた沢がそこだけ喉のように狭まって、広葉樹の森が両岸に迫っている場所です。その谷底に沿って緩やかに辿って行きます。所々斜面が崩れて露出した土壁も見えます。
上流はブナ原生林の天然の貯水池なので、季節を問わず水量はあまり変わりません。
いつも決まって同じ場所で、オオルリ [Cyanoptila cyanomelana] の囀りが、ブナの高い梢の方から聞こえてきます。
なぜかここで聞くオオルリはとても美しく聞こえるのです。
沢の底なので、見上げてもなかなか姿は見えません。ま、見えたとしてもお腹ですから。
谷川のせせらぎとオオルリの声を楽しみながら歩くことにしましょう。
よく、オオルリは幸せの青い鳥と呼ばれます。
でも、モーリス・メーテルリンクの童話劇の青い鳥は、じつはヨーロッパ産のキジバトの近縁種コキジバト [Streptopelia turtur] なのですよ。
と聞いてがっかり拍子抜けする人もいます。
だって考えてみてください。幸せの青い鳥は遠い遠い夢の国じゃなくて、結局、チルチルとミチルのいちばん身近なところにいた訳じゃないですか。
実際には、オオルリは極東・東南アジア限定の鳥で、しかも一属一種。ヨーロッパに類似種はいません。
まあ、日本ではバードウォッチャーに大人気の鳥で、見た人を幸せな気持ちにさせてくれますから、そういう意味で幸せの鳥ではあります。
夏鳥で、鹿角にはほぼ5月の声とともにやってきます。
長年日光に通っている松田道雄さんによると、キビタキより1週間程早くやってくる鳥だとされていますが、どうも鹿角の山ではそうでもありません。むしろキビタキより少し遅れて山に登るように感じています。
これは、日光と八幡平の、ちょっと興味深い違いです。
到着直後は市街地の近くや里山でもよく見られます。その時期なら、雄も低木や地面に近い位置にいるので、背中の美しい瑠璃色を堪能できます。
ところが、程なく囀りが始まる時期になると、雄を見かけるのは高木のてっぺんのソングポストです。遠いのです。お腹しか見えないのです。
地味な雌はといえば薮の中なので、これまたさっぱり見えません。
オオルリの雄が木の上部、雌が下薮という生活環境の違いには、明確な理由がある、という調査・研究結果を読んだ記憶があります。
繁殖期に雛に確実に給餌するために、各々異なる場所から異なる種類の餌を獲るということらしいです。
ヒタキ族なので基本は空中・樹上採餌の鳥です。しかし、雌は地面に近い部分での採餌もするようなのです。脚は貧弱で短いので、地上での行動はあまり得意じゃなさそうな鳥なのに…、母親は苦労しますね。
下から見上げるオオルリの雄は、逆光で空に溶け込んでしまいますし、曇りの日は燻んだ黒っぽい色になってしまいます。
「ほら、あれがオオルリですよ」と教えてあげても、なんだかさえない色の鳥だなあ…としか見えないこともあります。
八幡平大沼の周囲では、多いときには数カ所で囀っているオオルリがいるのですが、残念ながらだいたい見上げる角度になってしまうのです。
美しい囀りです。でも、どうも歌い方には2種類あるような気がしています。
いかにもオオルリと言う感じの、ややゆったりと複雑で長いフレーズを繰り返すときは、うっとりと聞き惚れさせてくれる美声なのですが。
それとは別に、単純な、やや面白みに欠ける短いフレーズの時もあります。
その違いは何故なのでしょうか？と疑問が湧きます。
オオルリは渓流の鳥といわれます。
思い返してみると、流れの激しい渓谷沿いで聞くオオルリは複雑に囀っているような気がします。
逆に、そのような場所以外では単純でつまらない囀りなのです。
どうやら、瀬音に抗して存在を強く主張するとき、いわゆるオオルリの声と言う長い複雑な囀りをするようだ、と言う仮説を立てている人もいます。
そうなると、瑠璃色に輝く姿を見られて、且つ同時に囀りも楽しめる場所って何処になるの？
結構、難しいです。大沼周辺はどちらもイマイチなんですよね。
私のお薦めは、取り敢えず雪解け水が渦巻く季節の湯瀬渓谷。囀りも綺麗ですし、運が良ければ渓谷の斜面を見下ろす角度で姿を見られます。
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