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14. クロジ [Emberiza variabilis]

クロジ

墨絵のような、影のような

  南北に細長い花輪盆地は四方を山に囲まれています。
  北に十和田外輪山から遠く八甲田の峰々。南に広大な八幡平の山塊。東は通称東山と呼ぶ花輪の街に被い被さるような1100m級の五ノ宮岳と皮投岳。そして、西は500mを少し越える通称西山、かつて尾去沢鉱山のあった水晶山、大森山などが並びます。

  初夏、その西山の麓を歩いているとき、林の中から聞き慣れない囀りが聞こえてきました。
  この辺りで今の時期鳴きそうな小鳥は……、ホオジロ、センダイムシクイ、キビタキ、オオルリ、セキレイ類、コサメビタキ、アオジ、カラ類……、いろいろな鳥を思い浮かべてみますが、どれも違います。
  強いて言えば歌い始めはイカルに似ていますが、終わり方が尻下がりで違います。
  分っかりませ〜ん。30分待っても姿も見えません。

  家に帰ってから「ことりのさえずり」サイトで調べること暫し……
  ありました!ありましたよ!クロジ [Emberiza variabilis] です。

  そうかそうか、クロジだったか。と、納得して後日再出動。
  再び声は聞けたのですが、姿は見えません。薮蚊と闘いながら小一時間。やっと、スギ林の林床の灌木で鳴いている、影のようなクロジの雄を見つけました。
  暗い林の中で黒い鳥ですから、困ったものです。

  よく比較されるアオジは、繁殖期には明るい木の梢などで囀ります。
  非繁殖期にアオジとクロジを見ていると、同じように地面に近い薮の中にいると思い勝ちですが、繁殖期にはかなり違うように思われました。
  囀っているクロジの姿は初めて見たので、意外な発見でした。

  黒い鳥というと、ハシブトガラスやハシボソガラスのカラスの濡れ羽色。艶のある黒光りするような色を思い浮かべてしまいます。
  カラスの色を想像していて、実際にクロジの和紙に墨で描いたような渋い黒を見ると、こんな色の鳥があったのかと驚きショックです。暗い森の中ではさらに目立たなくなる色です。

  アオジと同様、漂鳥で、鹿角では夏の繁殖期に見られる鳥です。
  東京近郊では、冬は公園で夏は高尾山などで見かけますから、それほど長い距離は移動しないようです。
  大陸にも少しいるものの、ほぼ日本固有と言ってよい分布ですので、外国人が見たがる鳥の一つです。

  地鳴きは「チッ」と言うやや金属性の音で、アオジとそっくりです。アオジと区別できると言う人、できないと言う人、両方いますが、私は区別できない人。
  全然違いが分かりません。聴力や音感は個人差が大きいので仕方がありませんね。

  雄は墨を流したような黒さで他に類似の鳥がないので一目瞭然なのですが、雌はアオジととてもよく似ています。停まっている状態の羽衣ではまず区別が付きません。
  ホオジロ属 [Emberiza] の多くの鳥は、尾羽根の両脇に白い羽があります。ところがクロジだけはその白い羽がありません。これがクロジ雌とアオジの唯一といってよい確定的な識別点です。
  ですから、分からないときは尾羽根を広げて飛び立ってくれるまで、じっと待ち続けることになります。
  アオジだと思って見ていたら、飛び立った瞬間に、あっクロジ雌だ!写真撮っておくんだったよーー。なんてことが何度かありました。
  そうです。私はクロジ雌の写真は一枚も持っていないのです。
  「飛び去りて尾羽に知るや黒しとど (和)」 一句捻っている場合か(苦笑)

  アオジよりも個体数はかなり少ないような気がします。加えて薮の中を好み目立たない色ですから、見つけるとちょっと嬉しい鳥です。

  一般的に鳥類の雄は雌にアピールするために派手な色合いの羽衣を持ちますが、クロジの雄はことさら目立たない衣を着ているように見えます
  でも、鳥類の色覚は人間には見えない波長の光、紫外線や赤外線も識別します。だからクロジの世界では全く違う色に見えているのかもしれません。

  クロジの雌に、「ねえねえ、キミのカレシはどんな色なの?」って聞いてみたいです。

[ print ] [ full width ] revision 1.3   2014/04/12 (2014/03/14初稿)

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