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夏鳥も勢ぞろいして春の渡りも終わりと思われた頃のある朝、庭に珍しい訪問者がありました。
伸び始めた雑草の間をぴょんぴょん飛び跳ねている2羽の鳥。な、なんと!ノゴマ [Luscinia calliope] の雄雌じゃありませんか。
ノゴマは東南アジアの越冬地から渡ってきて北海道で繁殖します。当地では旅鳥ですので見られるのは一瞬のはず。この貴重なお客様のために庭の草取りは一時中止して見守ります。
昼になっても、夕方になっても、広くもない我が家の庭にずっと居ます。庭のあちこち歩き回り、縁の下にまで入っていくし……、なにやらお寛ぎのご様子。よっぽど、ここがお気に召したようで。
まあ、翌日には居なくなるだろうと、取り敢えず写真だけはしっかり撮らして頂きました。
でも、翌日も翌々日も、まだ居ます。ええっ?まさか?いやいやいや…。そんなことは……ない、ない、ない。
2羽の行動、距離感からして番のように見えます。そして、次第に行動範囲を広げて隣家の庭にまで出張しています。渡り途中の休憩なら、リスクを冒してまで行動半径は広げないんじゃないだろうか。
時々、カエデの木の枝に、雄雌が1m程の距離で並んでいます。繁殖期以外は薮の中の地面をすばしこく動き回って、あまりゆっくり姿は見せないはず。
本州での繁殖例というのは、過去に早池峰山での一例だけです。もしかして、もしかして、これが2例目に……、と淡い期待にドキドキしました。
結局、1週間滞在して、一言の挨拶もなく(笑)いなくなりました。
津軽海峡を渡ってウトナイ湖あたりに行ったのでしょうか。
ノゴマの春の渡りの期間はかなり長いのでしょうか。4月中旬に尾去沢での目撃もあり、5月中旬に湯瀬渓谷で見たこともあり、そして6月も近くなって我が家でと、鹿角を通過する期間は50日程の長期に渡ります。
普通は、春は舳倉島〜飛島〜竜飛などの日本海ルートで一気に北海道へ向かうとされていて、関東や関西での目撃例はほとんど秋の渡りに集中しているようなのです。
しかし、鹿角では春の渡りに多く見られる気がします。ということは、日本海ルートの他に、本州の脊梁山脈ルートがあるのかもしれません。勇払原野に向かうには、竜飛よりも大間を経由した方が早いために内陸に進路を取るのかもしれません。
そのような記録はあまり見たことがないので、興味を惹かれる事象です。
仙北から八幡平を越えて?それとも、北上川流域から七時雨山〜野沢欠峠〜袰部という往古の坂上田村麻呂の蝦夷遠征コース?想像だけは勝手に膨らみます。
分類的にはノゴマ属 [Luscinia] で同じ属にコルリ [Luscinia cyane] が含まれます。また、コマドリ属 [Erithacus] とも近縁です。(*1)
長い足、高い腰、背筋のスッキリと伸びた立ち姿はコルリと共通です.
和名はもちろん野の駒鳥の意味です。
ファッションモデルのようにクールでスタイリッシュなコルリに対して、ノゴマは舞台俳優ともいうべき「濃い」キャラクターです。なにしろ、顔の派手な隈取りが印象的です。
地味な雌でさえバフ色の地にくっきりと白い4本の隈取りがあります。雄ときたら、白黒の隈取りに朱色の喉元と團十郎の暫ばりの派手さです。
よっ!成田屋ーっ!
種小名の Calliope はギリシャ神話に由来します。ゼウスの娘、パルナッソス山に住まうミューゼの一人、叙事詩を美声で歌い上げる女神カリオペです。
その名の通り美しい囀りということですが、滞在中には聞けませんでした。
北海道に行って歌声を聞いてみたい鳥の一つです。
(*1)最新(2010年以降)の分類では、
「旧コマドリ属 Erithacus の大半と旧ノゴマ属 Luscinia を、コマドリ属 Larvivora サヨナキドリ属 Luscinia ノゴマ属 Calliope に再編し、オリイヒタキ属 Hodgsonius をサヨナキドリ属に統合した。」
(Wikipedia ヒタキ科より引用)
となっています。
その結果、ノゴマは Calliope calliope に、コルリは Larvivora cyane になりました。
written by © 2014,OOSATO,Kazzrou : kazz_atmark_kk.iij4u.or.jp
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