雪解け水の迸る瀬音を聞きながら、森の谷沿いの山道を歩いていきます。
木漏れ日の強い明暗がちらちらと揺れる森の中は、小鳥の動く気配を消してしまいがちですが、足元の谷からはキセキレイが、頭上からはヒガラの囀りが楽しませてくれます。
大きく曲がって苔むしたミズナラの大木の幹に、一筋の光が差し込んでいました。そこにスポットライトを浴びたように立つコルリ [Luscinia cyane] の姿がありました。
一瞬の光景でした。でも、この森の宝石はすぐに飛び立って灌木の薮に隠れてしまいます。
それは気のせいなのでしょうか。コルリを見る場所はいつもそこだけ木漏れ日が当たっていて、森の中にひっそりと用意されたステージに妖精が立っているかのようです。そして、こちらに気がついて、すっくとポーズをとった後消え去るのです。
コルリとの出会いは、いつもそうです。
シャンペンバードと言う言葉があるそうです。
「姿を見た日は、とっておきのシャンペンを開けて今日の幸運に乾杯しよう!」と言う鳥のこと。私にとって、コルリはまさにシャンペンバードです。
「薮から出てきて囀っているときは、結構ゆっくり見られますよ」と言ってくれる人もいます。でも、残念ながらまだそういう場面に私は遭遇していません。
実際、私はコルリの写真は一度しかシャッターを押したことがありません。 上の写真は、カメラを取り出すのがやっと間に合った、貴重なその1枚。
コルリの美しさ。それは瑠璃色の色合いもさることながら、なによりその姿だと思っています。
地上採餌するノビタキ族(亜科)の特徴で、脚の長さと立ち姿のバランスがとても良いのです。フライキャッチャーのヒタキ族(亜科)は脚が貧弱ですから、立ち姿が不格好です。
「オオルリなんてダサくって格好悪くて……」とうっかり言ってしまい、顰蹙を買ったことがありました。まあ、夏鳥人気ナンバーワンのオオルリ [Cyanoptila cyanomelana] に向かってそれはないよね。
姿は滅多に見れないかわりに、声はしばしば耳にします。コマドリ [Erithacus akahige] によく似ていますが、もっと抑揚があってバリエーションが豊富です。 近くで聞いて、「チンチンチン…」と前奏が入れば決定的ですが、なかなか近くでは聞けません。遠く谷から風に乗って聞こえてくることは多いのですが。
夏鳥です。東南アジアや大陸南部から、北日本に渡ってきます。似ているコマドリよりも標高の低い場所が繁殖地になります。
主に落葉広葉樹林、ブナやミズナラの林の谷沿いの急傾斜地に多いような気がしています。
標高の低いところでは、湯瀬渓谷に落ち込む八森の急斜面とか、八幡平では、大沼外輪山の澄川側斜面とか、菰ノ森北面の坪沼を見下ろす斜面など。
ブナ林の残雪が少なくなって、そろそろ山道を外して歩くのが不自由になってきた頃、谷沿いの急斜面から風に乗って特徴的な囀りが聞こえ始めてきます。
運良くその時期に出会えればよいのですが、時を逸すると既に薮の中で、目にできる難易度がグッと上がってしまいます。
春の渡りで山に登る直前は、里山にもごく短い時間滞在することがあります。我が家の傍の谷戸で見つけたことが一度だけありました。まったく偶然の出来事ですが。
家に戻って、あいにくシャンペンはなかったので、取り敢えず冷蔵庫のビールで乾杯したのはいうまでもありません。
さて、コルリはどこに行けば見られるか?と言う質問に答えられるほど出会っていません。
妖精は信じる人にだけ見えるそうですよ。幸運を祈って歩き続けましょう。
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