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18. エゾムシクイ [Phylloscopus borealoides]

エゾムシクイ

春の声

  焼山火口から雪解け水を集めて流れ落ちる中の沢の激しい瀬音が聞こえています。曽利滝へ下る道はまだ雪の下です。慎重に歩きましょう。
  雪の解け始めた斜面ではイワナシが咲いています。
  ここの植物相は特徴的です。谷地沢と中の沢に挟まれた細い尾根筋の一列だけがゴヨウマツやコメツガの針葉樹です。そして、両側の斜面はブナやミズナラの広葉樹です。
  痩せた尾根筋だけ荒地に強い針葉樹で斜面は広葉樹という分布は珍しいものではありませんが、車を降りてすぐそういう尾根を歩ける場所は、そう多くはありません。

  頭上のゴヨウマツからヒガラ [Parus ater] の囀りシャワーが降り注いできます。
  対岸から、遠くビンズイ [Anthus hodgsoni] の囀りが聞こえてきます。
  そして、両側の斜面の広葉樹では、ちょうど到着したエゾムシクイ [Phylloscopus borealoides] が飛び回っていました。

  エゾムシクイは囀りの時は樹林の高層、梢付近にいます。採餌は下層、薮を好みます。 広葉樹の樹冠と林床の両方を一度に見渡せるここの急斜面は観察に好都合なのです。

  日本産Phylloscopus [メボソムシクイ属] 3種のうち、エゾムシクイがもっとも目にしにくい、と言うバードウォッチャーが多いです。
  里山のセンダイムシクイ [Phylloscopus coronatus] 、高山のメボソムシクイ [Phylloscopus borealis] に比べて、山の中腹・深い広葉樹林帯で繁殖するエゾムシクイは、たしかに見えづらい鳥です。
  目にはしても写真がまた撮りにくいのです。上の写真は春の渡りで我が家の傍に立ち寄ってくれたときの1枚です。ほんとうは山中で撮りたいのですけれどね。

  花輪盆地には、里の雪が消えて、皮投岳の山肌に黒い部分が増えてくる頃、センダイムシクイの後を追うようにやってきます。
  そのまま、里に居着くセンダイムシクイとは違い、1週間ほどで里から姿を消して、山の広葉樹林帯に登っていきます。

  ムシクイ3種の中では、いちばん小型で華奢な印象を受ける外観です。
  メボソムシクイに比べて、少し黄色味が強いこと、背中がほんの少し暗色なこと、眉斑はメボソムシクイよりも鼻先近くまで伸びていること、などなど、傾向的な識別点はありますが、かなり微妙な違いで個体差に埋もれてしまい、識別には悩まされることも多いです。
  鳴いてくれれば、地鳴きでも一発で分かって簡単なのですが。

  「ピッ」と言う甲高い金属性の地鳴きをします。囀りは「ツーキーヒー(月日)」と聞きなしされる3拍子の歌声です。
  繰り返して聞いているうち、ワルツのようなリズムに乗って聞こえてきます。
  ブナの芽吹きの季節、この声が聞こえるとワクワクしてきます。
  季節はまさに春です。「春の声」ヨハン・シュトラウスです。

[ print ] [ full width ] revision 1.6   2014/04/15 (2014/04/11初稿)

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