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6. ノビタキ [Saxicola maura]

ノビタキ

草原の風 夏のさきがけ

  4月中旬、気温が氷点下になって鹿角に遅い雪が積もった日のことです。
  米代川に架かる稲村橋の上から、小鳥の小群が見えました。川原に降りてみるとノビタキ [Saxicola maura] でした。 夏の花輪の祭典の時には、大きなかがり火を囲んで「さんさ」が行われる、あの場所です。
  柳の枝に止まって、丸々と羽毛を膨らまして寒さに耐えています。ちょ、ちょっと、のび太クン、来るのが早すぎたんじゃないの?

  バード・ウォッチャーたちは、この可愛らしいノビタキに愛情を込めて、「のび太クン」などと縮めて呼びます。 えっ?縮まってない?逆に長くなってるし……ま、いいじゃないですか。可愛いし。
  ちなみにドラえもんとは関係がありません。伸びた木でも、野火焚きでも、のび太キでもありません。
  野鶲(野原のヒタキ)の意味です。

  和名はヒタキですが、ルリビタキ [Tarsiger cyanurus] やジョウビタキ [Phoenicurus auroreus] と同様、すらりと伸びた脚からも分かるように、古典的分類ではヒタキ科ではなくツグミ科でした。強力な脚力を持ち、地上で採餌する、従来は「小型ツグミ」と呼ばれていたグループです。
  英名では、主に体型と行動様式から Flycatcher と Chat が呼び分けられていますが、和名は「ヒッヒッ」という地鳴きの特徴からどちらもヒタキと名付けられているものが多いのです。
  S&A(Sibley-Ahlquist鳥類分類)で、ヒタキ科とツグミ科が統合された時に、遺伝子的には小型ツグミは古典的分類のヒタキに近いとされ、ノビタキ族としてツグミ亜科ではなくヒタキ亜科の下にヒタキ族と並べて置かれました。
  ノビタキ族には、英名で Chat や Robin と呼ばれているものの大部分と、Flycatcher と呼ばれるものの一部(キビタキ属)などが入ります。ヒタキ族には Flycatcher の残りの大部分が入ります。
  さらに、近年の分類では、ヒタキ亜科とツグミ亜科が再び科に昇格したため、ノビタキ族はノビタキ亜科としているものが多くなっています。

  日本には夏にやってきて、東北地方では高原で、北海道では平原で繁殖します。

  森林や薮ではなく、草原、牧場、川原や田畑など開けた場所を好む鳥です。明るい草原や牧野の柵などの先に、ちょっと寂しげにポツンとに止まっています。

  春の渡りの時期には、川原などでよく見かけます。秋の渡りの時期には田圃の畔の杭などに停まっている姿が目撃されます。
  春の渡りの早い、さきがけの鳥です。ノビタキを見てから1週間〜10日ほど経つと、キビタキ [Ficedula narcissina] 、メボソムシクイ属 [Phylloscopus] 、オオルリ [Cyanoptila cyanomelana] などなど、夏鳥がいっせいにやってくるのです。

  稲村橋に姿を見せたのび太クンは、さらに山の繁殖地へと登っていきます。
  花輪盆地の周囲の山にはかつて多くの放牧地や牧草地、そして茅葺き屋根の茅を刈るための入会地がありました。
  三倉山から西へ延びる大きな尾根、花輪スキー場の裏側にあたる黒沢川側の南向き斜面など、かつては一面のカヤトの原でした。あるいは五ノ宮岳の登山道の途中にも萱場の名前だけが残っています。今はどちらも植林されて深い森になっています。
  かつての記憶だとそのような場所でもノビタキを見たのですが、今は見かけません。放牧地や萱場が放棄・転換され森林が深くなったのが原因かもしれません。

  最近ではこの地方では、八幡平など標高1000m以上の高層湿原が主な繁殖地になっているようです。
  八幡平の頂上の喧噪を避けて、長沼・草の湯方面に下っていく草原では、ゆっくり、静かに観察できます。

  いつも、草原を吹き渡る風を思い出させてくれる鳥です。

[ print ] [ full width ] revision 1.4   2014/04/14 (2014/03/05初稿)

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