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谷沿いの林道を歩いていると、尾根の上に大きな鳥が悠然と現れました。僅かな上昇気流を捕えてソアリングしながらゆったりとこちらに向かってきます。
双眼鏡の視界に入ると、美しい鷹斑を纏ったクマタカ [Spizaetus nipalensis] の成鳥でした。写真を撮るのも忘れて、ともかく1秒でも長く目に焼き付けておきたいと、見蕩れてしまうのです。
クマタカは森の生態系の頂点に立つ生物です。深い森の中で生活するため、その生態は意外に知られていません。まだまだ研究者の興味を惹く鳥のようです。
鷹の中でも特に美しい羽を持ち、その尾羽根は古くは矢羽根の材料として珍重されました。
東北地方(蝦夷地)の領主・豪族から、朝廷や幕府への献上品でした。クマタカより一回り大柄のイヌワシ [Aquila chrysaetos] は羽根の質が劣るために、イヌ(一段劣るもの)の名を冠されたとされています。
オオタカ [Accipiter gentilis] などのハイタカ属 [Accipiter] と同じく、幅広で短めの翼を持ちます。これは長距離巡航ではなく森の中での俊敏な旋回性能を高め、空中戦での戦闘能力を重視した体型です。
ワシタカ類の武器である脚の太さ長さは、より大型のイヌワシと同等と言われています。
空中戦では鳥を捕らまえ、または急降下してはノウサギ、キツネ、タヌキなどの地上の獲物を狙います。いわば、対空・対地の攻撃能力を兼ね備えた重量級の戦闘爆撃機です。
森の小動物や小鳥などを捕食する小型〜中型の猛禽類、例えばハイタカ [Accipiter nisus] やハヤブサ [Falco peregrinus] にとってさえ、クマタカは恐ろしい天敵のようです。
クマタカが森の上空を飛んでいると、いきなりスクランブル発進のようにハヤブサやハイタカのペアが飛び出してきてモビング(疑似攻撃)を加えるのを何度か目撃しました。
それは谷筋の急斜面の上空、2羽のハヤブサがクマタカ目がけて上空から猛スピードで急降下してきました。ハヤブサの武器は鳥類最速のスピードを活かした体当たり、小さな鳥ならこの一撃で失神するか骨折で行動不能になります。
しかし、クマタカはハヤブサが接近してきた瞬間に姿勢を反転して脚をハヤブサの方に向けます。ハヤブサと云えどもクマタカのヘビー級のカウンター・キックを受けたらひとたまりもありませんから、ギリギリで方向転換して再度上昇、また急降下攻撃を繰り返します。
たぶん、ハヤブサの巣がその近くにはあったのでしょう。巣の雛からクマタカの気を逸らすためにハヤブサ夫婦は必死でクマタカに立ち向かっていました。
その攻防が10分以上も繰り返されて、やっとクマタカは一つ先の尾根のアカマツの木に停まりました。ハヤブサ必死の防御戦はなんとか成功したようでした。
深い森に棲む鳥のため、なかなか目にすることはないと思われがちですが、飛翔姿を遠くから見るだけなら、結構機会はあります。
高倍率スコープで遠い山の稜線を飛んでいる姿を見て同定する、というレベルなら、ということです。
ただ、ある程度近距離で観察し、その生態の片鱗を知るためには、忍耐、行動力に運も必要かもしれません。私も、まださっぱり分からないことばかりです。
そんな鳥です。なにしろ、謎の鳥ですから。
花輪の市街地から、皮投岳〜五ノ宮岳の稜線の上空を大きな翼を拡げて飛ぶ鳥をよく目にします。ほとんどがトビかノスリなのですが、望遠鏡を向けてよく見ると「おおっ!クマタカ」ということも度々あります。
反対方向の水晶山や三の岳の方に見られることもあります。
西山に見られるものと東山に見られるものは、おそらく別個体でしょう。
八幡平では、菰ノ森北面から長滝沢源頭や大沼外輪山の赤川側など、北面の急斜面の樹林帯で見かけました。でも似たような環境の山毛森の周囲では見たことがありません。アスピーテラインとスキー場のためでしょうか?
観光道路を通しスキー場開発をしてホテルを建設して、「さあ、美しい自然を見にいらっしゃい」って?そんなに人間の都合ばかりでことは運びません。
クマタカは、そういう人間の気配のするものは、あまり好きじゃないみたいですね。
written by © 2014,OOSATO,Kazzrou : kazz_atmark_kk.iij4u.or.jp
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