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1. クロツグミ [Turdus cardis]

クロツグミ

歌い手ナンバーワン

  ゴールデンウィークの始まる頃、遠くからクロツグミ [Turdus cardis] の声が聞こえてくると、居ても立っても居られず、声の方向、近所の谷地に出掛けて暫し聞き惚れるのが、春の楽しみの一つです。
  なにしろよく通る声ですから、声の方向を頼りに歩いていっても結構距離があります。 他所のお宅の畑を横切ったり、挨拶したり……。
  まだ雑木林の葉は繁っていないので、すぐに見つかります。
  まずは、暫し歌声を堪能しましょうか。

  日本三大囃といえば、祗園、神田、そしてご当地花輪囃。
  では日本三鳴鳥は何?というと、古来からウグイス [Cettia diphone] 、オオルリ [Cyanoptila cyanomelana] 、コマドリ [Erithacus akahige] ですね。この3種が日本では良く知られた声の美しい鳥とされてきました。
  でも、野鳥好きなら、このクロツグミの名前を第一に挙げる人が多いのです。

  たしかに、先の3種に比べれば知名度は低いですが、こいつはダントツの歌い手です。
  この複雑な節回しには様々な鳥に似たフレーズも含まれますが、けっしてただの物真似ではなく、一声聞くとクロツグミと分かるオリジナリティがあります。
  いったいこの子の頭の中にはどんな楽譜が埋め込まれているのでしょう。頭をかち割って楽譜を見てみたい衝動に駆られるのは私だけでしょうか。
クロツグミのさえずり(MP3 約1分 鹿角市花輪荒屋敷で録音)   

  夏鳥です。中国南部の越冬地から、繁殖のために北日本の山地に渡ってきます。
  鹿角地方でも、4月末連休のあたりに到着と同時に囀り始め、5月中旬には八幡平の中腹にも登ってきます。
  あまり高地には行かず、花輪市街地に程近い高台・里山や渓谷、周辺の西山・東山、湯瀬渓谷等に多く、標高1000m未満のブナ林が上限のようです。
  春の湯瀬渓谷は、雪解けの激しい瀬音で小鳥の声は掻き消されがちですが、クロツグミの声は良く通って聞こえてきます。 八幡平では大沼より少し低めの場所の方がよく見られます。国道341の曽利滝周辺や、赤川橋から旧澄川温泉への道を歩いてみてもいいですね。あるいは、切留平から長滝沢や小折ヶ島沢の林道など楽しいです。

  ツグミ属 [Turdus] で、アカハラ [Turdus chrysolaus] などと同じ「大型ツグミ」(*注1)と呼ばれるグループに分類されますが、それらの中では最も小型です。
  真っ黒な頭・首・背中と、良く目立つ黄色のアイリングと嘴が印象的です。愛敬のある可愛い奴です。
  地上をピョンピョンと飛び跳ねるホッピングで、歩きながら採餌します。薮や灌木の間をチョコマカと動き回り、ツグミ属の中でも特に地上での動きがせわしなく開けた場所では留まってくれません。そういう場面では写真に撮るのも結構大変です。
  でも、春の囀りの季節だけは、木のてっぺんで何時間でも居座って鳴き続けて、じつに良く目立つ鳥です。もちろん、ゆっくり見られます。

  繁殖地にいる期間はやや長くて、秋の渡りの遅い鳥のようです。東京では11月に見たことがあります。
  しかし、夏から秋にかけては、この鳥を見る機会が極端に減ります。囀りの季節が終わると全く目立たなくなるんですよね。
  育雛ステージに入った途端に、何処で何しているか分からない謎の鳥になってしまいます。

  NHK-BS放送で、イギリスの田園風景を特集した番組がよく放映されます。決まって出てくる鳥が、お腹の黄色いシジュウカラの基亜種ヨーロッパシジュウカラ(*注2)、いわゆるロビンのヨーロッパコマドリ [Erithacus rubecula] 、そしてクロツグミの近縁種クロウタドリ [Turdus merula] です。
  マザーグースの「六ペンスの唄」に出てくる「クロツグミ」というのは実はクロウタドリのことです。 録音を聞いてみるとクロツグミよりは若干単調な囀りのようですが、それでもヨーロッパを代表する歌い手鳥とされています。

  (*注1)S&A以降の分類では、従来の「小型ツグミ」と呼ばれていたグループは、ヒタキ族(亜科)の下に置かれるようになりました。したがって、「大型ツグミ」という俗称もやや陳腐なものとなっています。
  (*注2)最新の研究分類では、お腹の黄色いユーラシア全域のシジュウカラと、お腹の白い極東のシジュウカラは別種とされ、Parus major はヨーロッパシジュウカラに割り当てられ、日本のシジュウカラは Parus minor と呼ばれるようになっています。

[ print ] [ full width ] revision 1.8   2014/04/11 (2014/03/02初稿)

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